第5話「運命の入口」
男はいつものように女を隣りに乗せて
シトロエンのハンドルを握り第三京浜を走っていた。
それぞれの日常から解き放たれたかのように
男と女はそれぞれ普段とは違った表情を見せる。
新横浜駅前のホテルのスイートルームで過ごす週末。
二人にとってそれはつかの間のオアシス。
車はいつものようにインターを降りて
新横浜の街に向かっていった。
この道を何度こうして走ったことだろう。
建設中のスタジアムを右手に眺めながら
見慣れたビル街が見えてきた。
男はいつものようにハンドルを切り
ホテルのパーキングへ車を滑らせた。
今日はフレンチにしようか、それともイタリアンか。
たまには和食もいいかも知れない。
そんな風に思いながら、女に問いかけた。
「今日は何食べる?」
すると女はこう答えた。
「ラーメン食べようよ♪」
ラ、ラーメン?男は自分の耳を疑った。
目の前で微笑む女は、間違いなくつい今さっきまで
車の中でパルマ産プロシュートの話をしていたではないか。
プロシュートだからこそ「生ハムメロン」は成立するのだ、と
そんな話をしていたのは別の女だったのか?
「な、なんでラーメンなんだよ」
男は動揺しながら尋ねた。
「だってこないだ言ってたじゃん」
「俺が何を言った?」
「『俺はラーメンなんて食べたことないから
あのラーメンが旨いかそうじゃないか比較できないよ』って♪」
何故お前は俺の言ったことは一字一句記憶していて
お前が言った都合の悪いことは全て忘れられるのだ?
男は女の都合のいい身勝手な記憶力に呆れていた。
「新横浜にね、ラーメン博物館ってあるんだよ。知ってる?」
男は女に手をひかれ、とあるビルへと入っていった。
(第6話に続く)
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小降りの丼の上には
「これはなんだ?」
その日、男は渋谷のSHOWER'Sで女を待っていた。
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