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2005/04/04

第4話「葛藤との対峙」

は言いようのない焦燥感に襲われていた。
これまでラーメンなどという下司な食べ物を
美味しいと思ったことは一度もなかった。
三十路になって初めて知った人生の真実。
それを十九歳の小娘に知らされた屈辱。
そう簡単に自分の価値観を変えるわけにはいかない。
今さらながらに美味しいと口に出したことを後悔しつつ
しかし目の前にいる女に対して誠実でありたい自分もいた。

dogenzaka「ね〜、やっぱ美味しかったよね?」
店を出て道玄坂を上り円山町までの道すがら
女は男の腕に自分の腕を絡めながら
満足げにそう問いかけてきた。
男は自問自答した。
ここで美味しいと言ってしまうことは
自分のこれまでを全否定することにはならないか。
あるいはこの目の前の女の軍門に下ることにはならないか。
しかしここで不味いと言ってしまうことは
自分の素直な気持ちに嘘をつくと同時に
愛する女に対しても嘘をつくことにはならないか。

「この値段ならまぁアリなんじゃないの?」

男は非常に屈折した答えを口にした。
女はそんな男の反応を楽しむかのように
「またそんな風に言う」と軽く口を尖らせている。
「だってお前ラーメンとフレンチは比べられないだろ」
「美味しかったなら素直にそう言えばいいのに」
女は男とのやりとりを楽しんでいるかにも見える。

「俺はラーメンなんて食べたことないから
 あのラーメンが旨いかそうじゃないか比較できないよ」

その一言がいけなかった。

「じゃあさ、他にも行きたいラーメン屋さんあるから
 今度また一緒に行ってみようよ!ね?」

この一言から男の人生が劇的に変わっていこうとは
男も女もまだ知る由もなかった。

(第5話に続く)

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