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2005/03/14

第3話「価値観の崩壊」

は嬉しそうに男の手を引く。
「ここだここだ!食券を先に買うんだね!」
メニューを見つめる女の潤んだ眼差しは
今までに男には見せたことのないそれであった。
男はそこにわずかな嫉妬心を感じながらも
女が見つめるメニューに目をやった。

太肉麺(ターローメン)

「このね、太肉麺っていうのをテレビでやってたんだよ!
 ね、これ2つでいいよね!?」
女は男の答えを待つまでもなく、太肉麺2つを注文した。

女はラーメンを待っている間、男に色々と話しかけていた。
仕事のこと、友人のこと、家庭のこと。
しかし男の心は上の空であった。
店内にはラーメンについての説明が書かれていた。
昔から説明書や食品などの原材料を見るのが趣味の男は
初めてのラーメンについての情報を取得するのに必死だったのだ。

「麺は固めに茹でてありますが、生煮えではありません」

何を言っているのかさっぱり分からない。
わざわざ生煮えではない、などと断るくらいならば
最初からそう誤解されないような茹で加減にすればいいではないか。
そう店内の注意書きに文句を言おうとしたその時、
目の前にラーメンが現れた。

これはいったいなんだ。

taromen小降りの丼の上には
スープすら見えない程の具が乗っている。
しかもラーメンの具とは思えないものばかり。
角煮?角煮は卓袱料理ではないのか?
キャベツ?しかもこれは生ではないか?
そしてスープの上に浮いた黒い油は何だ?

そもそもラーメンにキャベツは違うだろう。
キャベツはトンカツに合わせるものだ。
何が哀しくてキャベツを生で囓らなければならないのだ。
しかもこんなに大きな切り方をして…
俺は虫じゃねぇんだ…
男は自問自答しながらスープと黒い油にまみれた
生のキャベツを恐る恐る口にした。

うまい

生のキャベツがこんなにラーメンと合うとは。
男にとってそれは想像を超えた衝撃であった。

「ね!美味しいね!」
女は屈託のない笑顔で男を見つめる。
男はラーメンなどという下司な食べ物を
笑顔で美味しいという女に対して
普段ならば憎悪を覚えるはずだった。

「うん、旨いな」
思わず口をついた心の叫び。
男のそれまでの価値観が音を立てて崩れる瞬間だった。

(第4話に続く)

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